東京地方裁判所 昭和54年(ワ)6644号
原告
荻原孝
右訴訟代理人弁護士
有正二朗
右同
鴨田哲郎
被告
東京西鉄運輸株式会社
右代表者代表取締役
中嶋亨
右訴訟代理人弁護士
安藤武久
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者双方の求める裁判
一 原告
「被告は原告に対し、金七〇万三、八〇二円とこれに対する昭和五四年六月一〇日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。
二 被告
「主文と同旨」の判決。
第二当事者双方の主張
一 原告の請求の原因
(一) (当事者)
被告東京西鉄運輸株式会社(以下「被告会社」という)は、肩書地(略)に本店を有し、一般区域貨物自動車運送事業等を営む株式会社であり、原告は、昭和四五年四月一三日、被告会社に従業員として採用され、同五四年五月一一日に同社を退職するまでの間、被告会社飯田橋営業所において、集金・営業を中心に時には運転助手などの勤務に就いていた者である。
(二) 原告は、昭和五四年二月末に、被告会社から前記飯田橋営業所を閉鎖するので、残務整理を同年五月一〇日までに終えて、翌一一日付で退職して欲しいとの申込みを受けてそれを了解し、同年五月一一日付をもって、被告会社を、会社都合により退職した。
(三)(イ) 原告は、昭和四五年四月一三日から同五四年五月一〇日までの九年余の間被告会社に勤務していた。被告会社の退職金規程によれば、社員が会社都合により退職した場合は、退職時の基本月額(日給者の場合は基本日給×二五日)に勤務年数に応じた一定の支給率を乗じた金額の退職金を支払うとされている。
(ロ) 被告会社の就業規則によると、同社従業員の種類として、社員のみが定められており、同規則の全条項の適用は社員を対象としている。そして、原告は、入社時に社員が義務付けられている提出書類である履歴書、誓約書、身元保証書、戸籍謄本等を提出し、賃金諸手当、休暇、勤務時間をはじめとする労働条件等については、右就業規則の適用を受けている。従って、原告は、被告会社の退職金規程の適用を受ける社員である。
(ハ) 原告は、日給月給による賃金を受けており、その日給額は、一日金二四六三円である。従って退職金計算の基本月額は、金六万一五七五円となる。そして、支給率は、退職金規程三条一号によると、一一・四三となるから、結局退職金額は金七〇万三八〇二円である。
(ニ) 原告は退職の申出をした後、再三本件退職金の請求を被告会社に対して、なしたが、会社は一向に支払わない。そこで昭和五四年六月一日付書面で、再度支払いを請求し、同書面は、翌六月二日に被告会社に送達された。
(四) よって、原告は、被告に対し退職金七〇万三八〇二円とこれに対する請求の日から七日を経過した履行日の翌日である昭和五四年六月一〇日から支払ずみまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 被告の請求原因事実に対する認否
(一) 請求原因第一項の事実中、原告が従業員と(ママ)勤務していた間営業を中心に、時には運転助手の勤務をした事実は否認し、その余の事実は認める。
(二) 同第二項の事実中、原告が、その主張する日に退職した事実は認め、その余の事実は否認する。
(三) 同第三項の事実中、原告が九年余の間被告会社に勤務していた事実、被告会社の就業規則には、従業員の種類として社員のみが定められている事実、退職金規程とその内容、原告が入社時に履歴書を提出した事実、および原告が退職金の請求をした事実、その請求の書面が送達された事実は認め、その余の事実は否認する。
三 被告の主張
被告会社は、昭和四〇年八月一日、訴外西鉄運輸株式会社に、その営業権を譲渡して、いわゆる西鉄グループの一員となった。そして、被告会社の就業規則によれば、社員は「五六才に達した場合は、停年退職するものとする」旨規定されている。
原告は、被告会社に採用される前は、訴外東京ガス株式会社の飛鳥山サービス店である訴外合資会社堀越商店に勤務していたが、右訴外会社では、当時、集金の外にガス器具の販売をしなければならないため、その仕事がいやで被告会社に就職を希望したものであり、当時原告は既に満五九才であった。そこで、被告会社の支配人である奥田弘は、原告と面接した際原告に対し、<1>仕事は集金業務および雑役であること、<2>停年を過ぎているので一般社員として採用することはできないので、「嘱託扱い」とすること、<3>嘱託のため、基本給、昇給、賞与については、二、三〇パーセント位減額すること、<4>時間外手当および退職金は支給しないことを通告し、原告も、右の条件を承諾して被告会社に入社したものである。従って、原告には、退職金請求権は存在しないのである。
四 被告の主張事実に対する認否
原告は、当時訴外堀越商店に勤務していたこと、そこでの仕事として集金の外にガス器具の販売をしなければならないため、退職したこと、原告の採用時に面接したのは、被告会社の役員である奥田弘であること、被告会社の就業規則には、停年として五六才に達した場合との規定があり、採用当時原告は満五九才であったこと、更に採用時に嘱託扱いとの話があった事実は認め、その余の事実は否認する。
原告が採用された時に、原告が被告会社から受けた説明は、嘱託扱いであること、高令だが応募者がいないので採用するとの二点についてのみであり、賃金関係についても、一般社員との比較による説明は一切なく、現に昭和五〇年ころには、金一万円の昇給が実施され、更に賞与についても一般社員と同率の額の支給を受けたこともある。
五 被告の主張に対する原告の主張
(イ) 仮りに、原告に対し、被告の就業規則、退職金規程の適用がないとしても、原告の採用時の状況及びその後の就労実態に照らせば、原告は、被告の就業規則の定める社員と何ら変りのない労働者として被告に就労していたものであるから、就業規則にいう「社員」と差別さるべき合理的理由はなく、従って、原告に対し、右就業規則、退職金規程が準用されるべきである。
(ロ) 仮りに、原・被告間に退職金不支給の合意が存在するとしても、それは労働基準法九三条により、原告に適用あるいは準用される就業規則、退職金規程に違反するものとして無効である。
六 原告の主張(五イ)に対する被告の主張
原告の勤務実態は、一般社員と異なり、午後五時三〇分前に退社しても早退扱いにしたことはなく、その業務内容は集金と雑役の現業であること、被告の帳簿は一切記帳したことはないこと、集金の一件もない日もあったこと、得意先の支払期日に必らず集金をしなければならないということはなく、原告のペースに合わせて集金をすればよく、集金が二、三日ずれても被告は全く注意をしなかったこと、など原告が嘱託社員であるが故に、その勤務実態は一般社員のそれと比較して全く異なっていたものである。
七 被告の主張事実(六)に対する認否
すべて否認する。
第三証拠関係(略)
理由
一 原告が、昭和四五年四月一三日、一般区域貨物自動車運送事業等を営む被告会社に従業員として採用され、同五四年五月一一日付をもって被告会社を退職したことは当事者間に争いがない。
二 原告は被告会社に対し、退職金規程に基づいて退職金の支給を求めることができる旨主張する。
ところで、被告会社の就業規則によれば、社員は「五六歳に達した場合は停年退職するものとする。」旨定められていること、原告は採用当時満五九歳であり、被告会社(支配人奥田弘)から「嘱託扱い」である旨の説明を受けて採用されたこと、は当事者間に争いがない。
そうすると、原告は、被告会社に嘱託社員として採用されたものというべきである。
そこで、被告会社の退職金規程が嘱託社員に適用があるか否かについて検討する。
成立に争いのない(証拠略)を総合すれば、次の事実が認められる。
1 被告会社の就業規則には、同社の従業員の種類として、社員のみが定められている(この事実は当事者間に争いがない)。そして、右就業規則第四五条は「社員の退職金に関する事項は、別に定める退職金支給規程による。」と定め、これに基づいて制定された退職金規程には、第一ないし第三条に、社員が退職した場合、所定の退職事由別の支給率に応じて退職金を支払う旨を定めているにすぎなく、嘱託社員については何らの規定も存在しない。
2 被告会社は、原告が退職した日である昭和五四年五月一一日付をもって、新たに嘱託社員についての就業規則(嘱託者の雇用内規)及び賃金規程を制定したが、右就業規則第一条には「会社は当社を停年退職した者が引続き業務上必要と認めた場合、又は、新規に嘱託者が必要となった場合は、採用基準に基き採用することができる。」旨及び第四条に「嘱託者が退職した場合は退職金を支給しない。」旨の定めがある。
3 被告会社の従業員は約二〇名であり、原告が入社した昭和四五年四月当時、被告会社には、同会社を昭和四三年三月に停年退職し、引き続き最初の嘱託社員となった西堀又次(総務課長)のほか、食堂の賄い業務に従事していた大内某及び原告の合計三名の嘱託社員がいたが、その後、昭和五三年に自動車運転手の野崎某が、そして、同五四年一月一四日に被告会社を停年退職した堀猪佐男(被告会社市川営業所長)が、いずれも嘱託社員として入社した。
4 右西堀又次及び堀猪佐男は、いずれも嘱託社員として採用される際、被告会社支配人奥田弘から、労働条件として「嘱託社員であるから、基本給と賞与の額を一般社員より二〇~三〇パーセント減額する。時間外手当及び退職金は支給しない。」旨の説明を受けた。そして西堀又次は、被告会社を昭和五五年四月一〇日付で退職したが、退職金の支給を受けていない。
5 被告会社では、原告が在職期間中にも、社員の昇給・賞与の額が社内の黒板に掲示されたが、その都度「但し、嘱託社員は八〇パーセントとする。」旨明示されていた。
6 原告は、昭和五三年一一月頃、堀猪佐男に対し「嘱託社員になると残業もつかず、給料も下るし、退職金も支給されない」旨を説明したことがあり、また、西堀又次とも「嘱託はつまらんものだ、退職金も出ない。」と話し合ったことがある。
7 原告は終業時間である午後五時三〇分を超えて、午後六時三〇分頃まで勤務したことが少くないが、時間外手当の支給を一切受けていない。
8 原告が被告会社に在職していた期間のうち八年間の原告の給料昇給状況は、被告会社の全社平均のそれより概ね低い数値を示している。
9 原告が担当していた業務は、集金業務と雑役(銀行への使い走りや、社会保険等の関係書類を関係官庁へ届ける仕事)であり、集金のない日は伝票の綴じ込み作業をし、渉外的な営業の仕事はしていなく、また、一か月に一、二回程度の割合で、道案内のため自動車運転助手として添乗したことがある。
以上の事実が認められ、右認定に反する(人証略)はにわかに措信できず、ほかには右認定を覆すに足りる証拠はない。
三 右認定の事実によれば、被告会社には従業員の種類として、社員のほかに嘱託社員の区分が存在していたこと、就業規則及び退職金規程は社員のみを対象として規定されていたこと、嘱託社員には、西堀又次や堀猪佐男のように、被告会社の社員であった者が停年退職した後、嘱託社員として新たに採用され、週職当時の職務内容を引き続き担当していたものと、他方、食堂の賄い業務に従事していた大内某、自動車運転手の野崎某及び雑役と集金業務を担当していた原告のように、現業に従事するものとがいたこと、嘱託社員のうち、少くとも前者(西堀又次及び堀猪佐男)については、嘱託社員として採用される際、被告会社から労働条件として、基本給・賞与の額が一般社員より二〇~三〇パーセント減額されること及び退職金と時間外手当は支給されない旨の通知を受けていたこと、そして、嘱託社員について、現実に右通告内容どおりの取り扱いがなされていたこと、原告においても、嘱託社員には退職金が支給されないことを知悉して就労していたこと、被告会社は昭和五四年五月一一日付をもって、嘱託社員についての就業規則及び賃金規程を制定し、嘱金社員に対する従前の取り扱いを明定したこと、以上の事実が認められる。
右認定の事実のもとでは、原告主張の退職金規程は、嘱託社員である原告には適用ないし準用がないものと解するのが相当である。
そうすると、退職金規程が原告に適用ないし準用されることを前提とする原告のその余の主張は、さらに判断するまでもなく採用することができない。
四 以上の次第であって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松村雅司)